雪白の月
act 10
外警管理室へ戻ると、悠さんと西脇さんが言い合いになっていた…
「だから!大丈夫だと、何度言えば分かるんだ?」
「…隊長。そんな顔色で『大丈夫』だと言っても、信用できません。あとは、私達に任せてDrの所へ行って下さい。」
「だが…。まだ、終わったわけじゃないだろう?」
「そうですが。…夜勤もあと少しで交代の時間では?今日は早めに交代してください。」
「西脇!!」
…珍しく、西脇が引かない…。その事に焦れた石川は声が大きくなっていく…。
だが、西脇は聞く耳持たずに、話を進めていく。そして、戻ってきた岩瀬を見て―
「岩瀬。隊長を連れてメディカルルームへ戻れ。今日はもう終了だ。」
「西脇!勝手なことを!!」
「…隊長。これは班長全員からの…いえ、全隊員からのお願いです。休んでください」
そう言って西脇は頭を下げた。
頭を下げられた石川は… 「…わかった…」 そう一言だけ呟いて、部屋を出て行く。
「隊長!」 石川の後を追いかけようとした岩瀬に西脇は…
「後は心配するな。」 そう言って背中をポンと叩いた―
「はい。お疲れ様でした。」 岩瀬はそう挨拶をして石川のあとを追う。
その姿を見て、西脇は― 「やれやれ…。」 そう呟き…仕事へと戻っていった。
+ + +
「石川さん!待って下さい!」
「……」
「石川さん!…悠さん!」
「…なんだ?」
「メディカルルームへ行くんですよね?」
「…あぁ…」
「じゃあ、こっちですよ?」
岩瀬は石川が向かっている方向を思い当たり、苦笑する。
石川はメディカルルームではなく、屋上へと足を向けていて…
「…悠さん…。寒いですけど上へ上がりませんか?」
岩瀬の誘いに石川は目を見張り… 小さく頷く。
そんな石川の様子を見て岩瀬はそっと微笑んだ―
「やっぱりまだ冷えますね。…寒くないですか?」
「…あぁ…」
しっかりと防寒して屋上へと上がってきた二人は、対照的な雰囲気を出していた。
石川はまだ緊張していて。対照的に岩瀬は落ち着き払っている…
そして、石川は俯き加減にボソボソと喋りだす―
「…岩瀬…さっきの話だが…」
「はい。」
「…お前を俺の補佐から外す。どこか行きたい所を言ってくれ…」
石川は岩瀬を真っ直ぐに見てそう告げた。
そして、岩瀬は…
「…何処でもいいんですか…?」
石川を見つめ聞き返す。
自分の予想と違った反応を見せた岩瀬に驚いた石川は、動揺を隠せない…
岩瀬に答え返すことも出来ずに石川は俯く。
そんな石川を辛そうに見て―
「…悠さん…そうやって離れて、貴方はこの先一人で思い出すんですか?俺の事を…」
「…!!」
「悠さんはそれで満足なんですか?…俺は絶対に嫌です。」
「岩瀬…」
「そんなのは許さない。貴方の一番近くにいるのは俺です。だから…」
そこで言葉を切った岩瀬は…切なく笑い。
「だから“次”の配属先は“石川悠のSP”がいいです。」
「……基寿……」
「悠さん…貴方の近くにいることを許してください…。この先も貴方と二人でいたいんです…」
「……」
「悠さん…俺の望みはこれだけです。」
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